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2005年01月16日

中村好文のカフェオレ・ボウル

nakamurabowl2.jpg 建築家・中村好文さんのカフェオレ・ボウルです。
 展覧会「建築家の流儀」に出品されていて、欲しくて受付の女性に尋ねたけどどこで買えるかわからなかった。
 しばらくして、一緒に行った友人から、「あの、これ・・・」と渡されて、あけたらこのボウルが2個入っていました。2004年最大の喜びでした。

 「建築家の流儀 ハンドブック」によると、中村さんは、アラン・ドロンが映画で「親指と中指をひろげてボウルの口元にあてがい、人差し指をボウルの内側に引っかけて微妙にバランスさせて飲むその手つきに見惚れ」「適当なモノが見つからないので、とうとう自分でデザインして作ってもらうことにしました」そうです。
 なるほど!写真がヘタなのでわかりませんが、かなり深さがあります。これは熱いカフェオレをなみなみとは注がないためなんですね。
 また、この10角形は、指が引っかけやすく、口元に治まりやすいのです。8角形だったら、口の端からコーヒーがこぼれてしまうかもしれません。 
 しかもまず、美しい!

 私も昔映画で、フランスでは朝食のコーヒーを、ああいう器で飲むんだ!と、あこがれた記憶があります。飲んでいたのはジャン・ギャバンでしたが。
 これをいただいて、早速カフェオレ用の豆を買いました。


 中村好文デザイン カフェオレ・ボウル 最大外径137mm 高さ81mm 重さ300g いただいたものなので、値段はわかりません。

「建築家の流儀 ハンドブック」松下電工NAISミュージアム+中村好文+松戸真紀子 (建築家の流儀展-2004年6月19日から8月10日-にて配布)

投稿者 蒼木そら : 17:57 | コメント (1)

塚本カナエ カフェオーレボウル

tsukamoto.jpg 塚本カナエ 青白磁カフェオーレボウル(クロワッサンの店)です。
 自分用のご飯茶碗を探していて、どこへ行っても見ていたけど、なかなか買いたいものがなかった。
 これはご飯茶碗ではないけれど、ご飯用に使っています。あるときアイスクリームを盛ってみたら、とても似合いました。それ以来、ヨーグルトなどにも使っています。和え物などをちょっと盛るのにもいい。薄くてひらいた縁が優雅です。
 カフェオーレボウルとうたっていますが、中村好文さんのように指を引っかけて使うのには浅すぎます。お抹茶のように飲むのでしょうね。

 塚本さんの青白磁を最初に見たのは、ポットだったかカップ&ソーサーだったか。だんだん増えてきています。人気があるのでしょうか。

クロワッサンの店 「塚本カナエ カフェオーレボウル」 最大直径 120mm 高さ約60mm 重さ 160g ¥2,100

まちだ東急 JR町田駅前 042-728-2111(代表)

クロワッサンの店ホームページ

投稿者 蒼木そら : 16:57

2005年01月14日

町田市立博物館「河井寛次郎展」

 「表現者河井寛次郎」展が、町田市立博物館で開かれています。
 河井寛次郎(1890~1966)というと、柳宗悦、バーナード・リーチ、濱田庄司等との民藝運動の陶芸家と、まず頭に浮かびます。
 しかしこの展覧会では、晩年の創作に重点を置き、陶芸のみならず、木彫りや書なども展示し、自由な表現者としての到達点を見ようというもののようです。
 もちろん、初期や中期(民藝期)の代表作もあり、デザインした家具も見られるとか。 

 この企画展は、2004年4月に、渋谷松涛美術館でスタート時から話題となり、岐阜県現代陶芸美術館、アサヒビール大山崎山荘美術館を経て、この町田市立博物館が最後となっています。

「表現者河井寛次郎」展 2004年11月16日~2005年2月6日(日)
町田市立博物館 9時~16時30分 月曜休館 無料 町田駅からバス

投稿者 蒼木そら : 19:10

2005年01月13日

テレビ朝日「相棒」は面白い

 軽い刑事ものと思っていた「相棒」が実は骨太なドラマだと気づいたのは、2004年の10月の1話だった。政治中枢のスキャンダル、2回連続の大作だった(と思う)。
 (と思う)というのは、テレビ朝日の公式頁で確認をしようとしたが、記録がなくてできなかったからだ。現在の放送は第3シーズンになるという人気ドラマなのだから、もっと整備して欲しい。

 観る理由
 1.水谷豊が好き  
 2.共演者も好き 寺脇康文、鈴木砂羽 岸部一徳 六角精児
 3.キャラクター設定が好き
 4.テンポがよい 妙な引っ張りや、泣かせがない
 5.窓際刑事の水際立った推理に胸がすく
 6.ほかにまともな刑事ものがない
 7.割り切れなさ 哀愁感
  前回の最後 競技場のシーンは象徴的
 8.寺脇=刑事亀山薫のライバル 警視庁捜査一課の刑事たちの馬鹿馬鹿しさはあり得ないが 面白いので目をつぶろう

 さて第3シーズンの10話(2005年1月12日水曜日)
「ゴースト~殺意のワイン」

 作家が夫の編集者を殺すというと、「古畑任三郎」の中森明菜の回を思い起こすが、そこでもう損をしている。明菜は古畑と堂々と渡り合ったが、この頭の悪い犯人は、水谷=杉下右京に似合わない。だから今回亀山刑事が活躍したのかもしれないが。

 1.説明しすぎ
 2.岸部と六角がでない(笑)
 3.説明しすぎてるくせに、友人の編集者の愛情がもうひとつ理解できなかった。
 
 好印象も書いておこう。
 友人の編集者役の春木みさよ、地味な感じの女優だが、淡々としたセリフが聞きやすく、きりっとした感じをうちに秘めていて好印象。「阿修羅の如く」に出ていたというが、何の役だったのだろう。
 
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 「相棒」テレビ朝日 水曜9時

キャスト:水谷豊 寺脇康文 鈴木砂羽 高樹沙耶 岸部一徳 六角精児 他

チーフプロデューサー:松本基弘
脚本:輿水泰弘 他

第10話 2005年1月12日9時~放送
    ゲスト出演: 筒井真理子 春木みさよ
    脚本:東多江子
    演出:長谷部安春

投稿者 蒼木そら : 20:06

2005年01月12日

シャム猫ココシリーズ25作目

『猫は銀幕にデビューする』
リリアン・J・ブラウン/羽田詩津子訳
ハヤカワ文庫
2005年2月下旬 
早川書房 刊行予定 より

 2004年2月の「猫は川辺で首をかしげる」から、ちょうど一年ぶり。楽しみです。

投稿者 蒼木そら : 18:18 | トラックバック

2005年01月11日

「Arne アルネ」 10号 イオグラフィック

「アルネ」は大橋歩さんが企画編集写真取材を全部してつくっている雑誌です。

 2002年9月に発刊した「Arne」、2004年12月に10号が出た。おめでとう!実は別冊も出ているんです。パチパチパチ。
 
 この雑誌「Arne」を知ったのは、2003年の11月、松江の友人の家でだった。表紙が本屋さんの写真の5号である。
 このような綴じ方をなんと呼ぶのか、おおよそB4の紙を半分に折って、真ん中をホチキスで留めたような体裁である。表紙は写真だが、テラテラした印刷ではなく、持って柔らかい感じがする。軽くて読みやすい。
 帰宅して早速「大橋歩」と検索してイオグラフィックのホームページを探し、バックナンバーを送ってもらった。それから毎号、別冊「うちで使っているキッチン道具」ももちろん。

 「Arne」10号には、びっくりする特集がある。作家のH.M.さんのおうち訪問、もちろん写真いり。大橋さんも「プライベートはどんなことも出されないから」と書いている作家だ。
 もちろんもちろん、記事では本名です。でも、10号の表紙にも載っていないし、雑誌を開けないと気がつかない。大橋さんも編集後記で「そーっと楽しんで」って。だから、ばらしてはいけないような気がして「H.M.さん」。ヒント?iMac、大量のレコード、スニーカー、かな。
 大橋さんは一緒にお仕事をしたことがあって、そしてファンなのだそうです。だから、緊張して訪問されたそうです。こちらも一緒にドキドキして読みいり見入りました。

 「Arne」では毎号いろんな方のおうちや仕事場訪問が載る。人脈が豊かなのでしょう。有名な人もいるし、私が知らない人もいる。どれも興味深く読めるのは、大橋さんの視点がカジュアルで、一緒に見ているような気になるから。あそこ見たいな、というところを見てくれる。

 10号のお菓子は、「むぎまんじゅう」と「焼き菓子」こんど買いに行こう。
 オーダーでスーツを作ってもらうという記事もあって、「Arne」もついに高級志向?と思ったけど、とても上等そうな生地で作って、ジャケット7万5千円ぐらいって書いてるので安心した。

 まだまだ「Arne」を置いてる本屋さんは少ないのか、イオグラフィックの「Arne」頁には、販売してる書店のリストがある。
 私はいつも「有隣堂ルミネ町田店」で買う。何ヶ月か前から、バックナンバーも置くようになった。いまは全号はないけど。別冊もあります。センター南店にも10号があった。有隣堂はえらいです。こんど近所の書店を調査しようと思っています。

 アルネ Arne を応援します。大橋歩さんのようなビッグなひとがつくっている雑誌を、誰も読まないようなインターネットの片隅で応援っておこがましいけど、貧者の一灯ってことばもありますから。

 「Arne」は書店になかったら、イオグラフィック(www.iog.co.jp)で。525円。送料は1冊なら160円。
バックナンバーも、別冊もあり。

 年間定期購読(年4冊)をすると、12月の号でプレゼントがある。この10号からでも可。
 プレゼントはカレンダーですって。但し、なくなり次第終了だそうだから、プレゼント狙いで申し込む方は(笑)、確かめたほうがいいかも。

投稿者 蒼木そら : 23:47 | トラックバック

2005年01月10日

パソコントラブルと風邪

 2004年暮れから2005年にかけての正月休みは曜日の関係で短かった。だから2日または3日仕事に行って8,9,10の三連休は嬉しい。
 それなのに、8日の夜から風邪の気配。最近はオナカの風邪とか骨が痛い風邪とか、一筋縄ではいかないのが多いようだけど、はなみずから始まる子供のころから親しんだ風邪。これなら経過の見当がつくなあと、じっと寝ていたのでした。
 
 ひとつメールする用事を思い出し、9日の朝パソコンをつけたら、ピーーー音が続いてWindowsが立ち上がらない。メッセージが出ているが、体が痛いし熱はあるしで読む気力がない。というかそれは口実で、マウスが使えなくなるとパニックになってしまうんです。
 どうかこのことは忘れてくれますようにとパソコンの神に念じ、消してつけなおしてみたが、また同じこと。修理かなあ、買い替えかなあ。

 今日10日の午後になって、娘が来たので話したら、どこかキーが押されているんじゃない?と言う。ピーピー音させたままよく見たら、ファンクションキーのひとつが押されたまま、あげたらあっさり直ったのでありました。
なーんだ、そんなことか!

 初めて買ったパソコンはWindows3.1だったから、もう12~3年?さわっているはずなのに、まったくトラブルに弱い。改めてキーボードを見ると、知らないキーがいっぱいある。我ながら最低のユーザーですよね、まったく。

 風邪のほうがまだ気心がしれていて、見込みどおり順調に回復しています。
 

 

投稿者 蒼木そら : 18:23 | トラックバック

2005年01月09日

「カーサ ブルータス」2005年2月号(特別号) マガジンハウス

 New Open! という記事がパリやロンドンの店だったりする「カーサ ブルータス」、あまり日常生活に縁のない雑誌である。耳慣れない言葉に戸惑いつつ、背伸びして読んでいる。(若者ならともかく、いいトシして「背伸び」もおかしいが)

 「今年こそ、家を建てる!買う!変える!」
 「最強最新!住宅案内2005」

 と2月号の表紙にある。「!」の多さがいかにもBRUTUSだが、まるまる1冊住宅の特集だという。いくらか役に立つのだろうか、と頁を繰った。
 安藤忠雄デザインから始まる「この1年を見渡して、個人住宅、集合住宅、そして別荘のベストをセレクト」した写真と記事がどっさり。どれも個性的で楽しい。
 しかし実際、建築家に頼んで家を建てるひとってどのくらいいるのだろうか?と思ったところへ、
 「建築家と家を建てるための11のポイント」
という記事もあり、興味深く読んだが、精力を要する作業ではある。
 簡単に早く、というひとのためには、ハウスメーカーの家もとりあげられている。

 集合住宅では、東京都内で15万円以下のアパートも紹介されていたり、入居者募集中の頁もある。なかなか実用的だ。
 このような、いわゆる「デザイナーズ・マンション」を選ぶひとって、どのくらいいるのだろう。まだまだ、駅から歩何分、間取りはこれこれという、不動産屋やインターネットの物件案内で選ぶひとが多いんだろうな、実は。

 住宅関係のテレビ番組、「カーサ ブルータス」はじめ住宅、インテリア関係の沢山の雑誌、それらと、実際に私たちが接する不動産屋や建築業者とは、まるで別世界のように離れている。
 今号がその乖離を埋める一助となるだろうか?

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月刊「カーサ ブルータス」Casa BRUTUS 2005年2月号
2005年1月10日発売 マガジンハウス 980円


casa brutus2月号

投稿者 蒼木そら : 02:29 | トラックバック

2005年01月07日

「アーキラボ」展・森美術館

「アーキラボ:建築・都市・アートの新たな実験展1950~2005」 
東京六本木ヒルズ 森美術館で開催中
2004年12月21日~2005年3月13日(会期中無休)
入館料/一般1500円。学生1000円、子供(4歳~中学生)500円

 この展覧会で見ることができるのは、おもに建っていない建築なのだとか。模型やドローイング、スケッチ、文章などが出展されていると聞いても、ちょっとピンときません。

 もし在庫があれば、下記に詳しい記事があります。
「カーサ ブルータス」2005年1月号 マガジンハウス 880円
または、こちらのオンラインショップにあるかも。
特集「ニューヨーク、新生MoMAのすべて」の号。P145~P154

森美術館 六本木ヒルズ森タワー53階 03-5777-8600(ハローダイヤル)


投稿者 蒼木そら : 23:44 | トラックバック

「このミステリがすごい!」2005年版

 こういう書物は書店で探しにくい。雑誌なのか、単行本なのか。雑誌なら女性誌、男性誌、専門誌と分かれているし、どこを見たらいいのか。
 幸い昨年の暮れに行った有隣堂ルミネ町田店では、「このミステリがすごい!」と「週刊文春」のミステリベスト10のコーナーができていて、この「このミス」も一緒に並べてあった。「週刊文春」のほうはいつも買い忘れてしまう。

 ベスト10にあげられたタイトルを見ると、国内海外で1冊づつしか読んでいない。情けない。もっとも、話題の本を全部追いかけるわけにはいかない。時間なく資金なく置き場所なし。まあ、貧乏くさい話はさておき・・・。

 国内では、6位の「硝子のハンマー」貴志祐介著(角川書店)を読んだ。久しぶりの密室ものだった。鮮やかな手だと思い、今年の1位!とひとり叫んだのだったが、ほかに読まないのでは比較のしようがない。
 探偵役の男性のほうの人物が、印象に残っている。
 
 裏表紙に5年間のベスト5が載っていて、そうそう、2003年の1位は「葉桜の季節に君を想うということ」だったのだ。これにはおおいに異議があった。早い話、何が面白いのか理解できない。たしかにオチは最後までわからなかったが、わかってもなーんだ、と言うだけのオチだったし。

 海外では、4位の「ダ・ヴィンチ・コード」ダン・ブラウン著(角川書店)を読んだ。厚い上下である。長かった。著者の薀蓄に驚嘆し、キリスト教社会の知らない側面をちょっとばかしのぞいた気がした。しかし、4位?うーむ。膨大な知識の割りに、もの足りなさが残った気がするが。もちろん、ほかを読んでいないので、何も言う資格はない。

 ベスト10のうち、読みたいと思ったのが何冊かあった。
 国内編。
 1位の「生首に聞いてみろ」法月綸太郎著(角川書店)。タイトルで食わず嫌いしてしまったが、「小粋で小味な謎とロジックが、連鎖するように繋がっていくのだ」「堅牢なロジックで隙なく構築された傑作」(「このミス」P7)とまで言われると、読まないわけにはいかない。
 2位の「アヒルと鴨のコインロッカー」伊坂幸太郎著(東京創元社)。「洗練された技巧に加え、(中略)哀切な読後感が漂う」(「このミス」P8)。これもそそられる評だ。
 4位の「THE WRONG GOODBYE」矢作俊彦著(角川書店)。「マーロウへのオマージュ」だそうだ。ちょっと迷う。
 7位の「暗黒館の殺人」綾辻行人著(講談社ノベルス)。おどろおどろしいのかと手を出さなかったこの作家。これを読むなら、その前にずっと遡って読まねばなるまい。気後れしている。

 海外編
 2位の「魔術師」ジェラリー・ディーヴァー(文藝春秋)。リンカーン・ライム・シリーズ。魔術師か、面白そう、と思ったところに、「科学の最先端を行く鑑識捜査の面白さ」とか、「ライムとアメリアという主人公コンビのあり方にも及んで」(「このミス」P26)と聞いては読まねばなるまい。
 6位の「誰でもない男の裁判」A・H・Z・カー(晶文社)。短編集が選ばれるのは珍しいのではないだろうか。晶文社を評者は、(この出版は)「最大のお手柄」と褒めている。味のある短編集は就眠前のいい友である。読んでみたい。

 盛り沢山な内容にいちいち触れることはできないが、暮れになると恒例になった、「このミス」の発刊。ベスト10に選ばれた中で残ってゆく本はどれだけあるかわからないが、1年を見渡す参考に、毎年心待ちしている。

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「このミステリがすごい!」2005年度版
宝島社 2004年12月22日発行


このミステリがすごい!

投稿者 蒼木そら : 00:27 | トラックバック

2005年01月05日

町田天満宮のがらくた骨董市

2005年お正月の骨董市は、1月13日(木)に開かれます。
午前8時~午後4時  雨天決行
(2月からは、また1日になるようです)


 たまにのぞきに行っていますが、このところ着物や布が多いですね。どこかの市で買ったらしい着物姿の方もちらほら。
 お正月はさぞかしでしょうか。

 自分としては、小さな家具などがもっと出るといいな。

投稿者 蒼木そら : 22:35 | トラックバック

「痕跡」パトリシア・コーンウェル

 検屍官シリ-ズの13作目である。フロリダに住むケイ・スカーペッタのもとに、彼女の後任のバージニア州検屍局長から電話が来たとき、彼女はキッチンで肉をマリネしていた。ケイは料理が好きだ。パスタも打つし、パンも焼く。彼女のキッチンは広く整っていて、それを誇りにも拠り所にもしている。

 電話の相手からリッチモンドに来て事件解決を手伝ってくれと頼まれ、不安を感じつつも、ケイ・スカーペッタは5年ぶりにリッチモンドへ赴く。もちろん、相棒のマリーノ警部も一緒だ。いや、彼ももう警察を辞めて、警部ではないのだが。

 シリーズものは、評判に拘わらず出ると読んでしまう。主人公の人生や人間関係の行く末を見たいからだろうか。
 人間関係という意味では、ちょうど1年前に出た前作「黒蝿」の結末に驚いた私であったが、今回その彼とはどうなのだろうか。そしてマリーノの想いは報われるのか。
 
 再び舞台は検屍局に

 前作まで引き続き登場した「狼男」は、今回は出番がない。正直、これは嬉しかった。
 「痕跡」で扱われているのは、普通のひとたちである。病死と思われている少女の父母、後任の検屍局長、ケイの姪ルーシーの周りにも、病んでいるひとばかりだ。現代で正気を保つのはいかに難しいことか!と思わせられる。
 病気で死んだはずの少女の事件になぜケイ・スカーペッタが呼ばれたのか。FBIが関わってくるのも解せない。政治的な思惑を察する彼女だが、誰かの企みにせよ、来たからにはキッチリ解決しようと、マリーノとともに調査に乗り出す。

 リッチモンドに着く早々、昔仕事をしていたビルが壊されているのに出くわし、マリーノと歎くが、この直後に工事現場で作業員が事故死する。そして、まったく関係のないこの作業員と病死の少女とのつながりが発見され・・・。
 スカーペッタが去ってから荒れた職場となっている検屍局だが、なおかつ熱意をもって検査をする職員により、次第に謎が解かれてゆくあたり、ミステリの面白さが味わえるくだりだ。

 一方ルーシー(どうも大金持になっているらしい)も問題を抱えている。一緒に住む部下であり友人である女性が襲われる。犯人は何者か、何ゆえか。
 おばと姪は例によって、想いつつも互いを邪魔することを恐れて連絡もとらずにいるのだが、事件は交錯せずに終わるのか?

 美人で頭がよくて正義感があり、ときに感情的なケイ・スカーペッタ。疲れていようと、服が泥にまみれようと、今回も堂々たる仕事ぶりを見せてくれる。
 マリーノのトラブルへの対処のシーンでは彼女の強さと優しさが発揮されて見事だし、マリーノもまた、これに応えるかのように、いきいきと獲物を追いつめてゆく。

 「痕跡」おすすめです

 舞台柄と言おうか、目を背けたいような描写は続々とあるが、今作に始まったことではない。読者は承知のうえであろう。それでも風格を感じさせるのがケイ・スカーペッタであり、パトリシア・コーンウェルの筆力であろう。
 今回特に主役を含め登場人物の心のありように説得力がある。ミステリとしてももちろん面白く、上下巻を暮れの掃除もせずに読んだ。

「痕跡」上下 パトリシア・コーンウェル著 相原真理子訳
 講談社文庫 2004年12月 各750円
(原題「TRACE」2004年 Cornwell Enterprises Inc.)


痕跡

投稿者 蒼木そら : 19:20 | トラックバック

2005年01月04日

「博士の愛した数式」小川洋子著

「第一回本屋大賞受賞!」と帯にある。評判は前から聞いていたが、ハートウォーミングで主人公が数学者の話という印象で、退屈なのではないかと手を出しかねていた。
 
 80分以上前は忘れてしまう主人公

 退屈なんてとんでもない!読んでいる間ずっと底に緊張感があった。主人公:「博士」は、「記憶が80分しかもたない」という設定である。作者は自分で決めたこのルールを破らずに物語を進めることができるのだろうか?どこかで破綻するのではないだろうか?こんな意地悪な期待が生む緊張である。
「博士」は数学の優秀な学者。しかし、事故により、記憶の蓄積が1975年で終わっていて、いまの彼は80分以上前の記憶は消えてしまう。「博士」の家政婦である「私」も、その息子の「ルート」も、毎日初めて会う者として認識されるというわけなのだ。そんな状況で、人間関係は成り立つのだろうか?

 220と284は「友愛数」

 記憶障害を負っている博士は、社会との関わりを得意の数字に置き換えることによってようやく保っている。得意の?いや、「愛している」というべきだろう。

 例えば、ある日「私」に誕生日を訊く場面がある。
2月20日。220、実にチャーミングな数字だ
と「博士」は言う。そして、自分の腕時計に彫られている数字の284を並べて書き、各々の約数を足してみるように言うのだ。
 220の全ての約数の和は、284。そして、284の全ての約数の和は220!このような二つの数は「友愛数」と呼ばれているのだそうだ。

 「博士」はこんなふうに数字の秘密を説明するのを心から楽しみ、問題を解く喜びを「私」や10歳のルートに教える。

 自分のことになるが、この本を読んで想い出す。小中学生のころ、算数が好きだった。「答がひとつだから」と生意気なことを言っていた。高校からははっきり自分に才能がないことがわかったが、解く最も大きい喜びは、やはり数学にあった。
 数字のなかでは7,13,17,19などの素数の孤独な雰囲気を好み、逆に12,24,36等のキッパリ感も好きである。
 教え上手の「博士」に導かれ、宇宙のように遠く深い数学の世界を垣間見て、美しい!と思った。

 野球、特に阪神、特に江夏

 「私」の息子・ルート(博士がつけた呼び名)と「博士」の共通項は「阪神」である。といっても「博士」の記憶にある阪神では江夏が背番号28をつけて活躍しているのだが。「博士」は江夏とその背番号28の熱心なファンなのであった。

 現実とのギャップを感じさせずに楽しむために、「私」とルートはさまざまな気を使うのだが、10歳の少年のこまやかな心に感心する。外出を嫌う「博士」を連れ出して阪神・広島戦を観に行く場面は、描写も詳しく、ひとつのクライマックスだ。すでに小川洋子の構築した世界に入ってしまっている読者は、ともに球場の雰囲気を楽しみ、より「博士」を愛し、傷つきませんように、と願う。

 驚くべき構築力

 この小説の最大の魅力は「博士」の人格にある。ちょうど、この本の各所に出てくる端正な数式のように純粋で、美しい。
 繰り返しになるが、「私」とルートは、「博士」にとって、会うたびに初めての知らない人だ。見返りを期待しないこのふたりからの深い友情も、危うくバランスをとって成立している稀有な数式なのかもしれない。
 最後まで破綻はなく、きっちりと構築されたフィクションを読む快感を味わった。

 文章はやさしく、数字もすんなり溶け込んでいる。奇跡的なハッピーエンドを微かに期待したが、それがないのも自然で気持ちがいいし、終わり方も妙にドラマチックでなく好感を持った。
 小川洋子、この著者の作品をいままで無視していたことを悔やむ。

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「博士の愛した数式」小川洋子著
新潮社 2003年8月 1575円


博士の愛した数式

 この作品が映画化されるというニュースを聞いた。
 期待しよう。

監督:小泉堯史(「阿弥陀堂だより」「雨上がる」)
キャスト:寺尾聡、深津絵里、吉岡秀隆、浅丘ルリ子
 製作:アスミック・エース

投稿者 蒼木そら : 15:10 | トラックバック